『だから嫌われる』第22条慰め上手
『だから嫌われる』
第二十ニ条 慰め上手
われわれが失意や不幸にある時に、それを救う力はなくても、慰め手となってくれる人は何時までも忘れないものだ。しかし、心ない人に訴えればかえって傷を荒立てられたりする。
うっかり打ちあけて、実に深手を負わされたりもする。その人がいいとか悪いとかにかかわらず、一応その人の身になって慰められる柔らかい気持の人、そういう人々をだれでも求めている。「それはあなたの方にも落度がある」などと説教めいたことを真っ先に言う人はちょっと冷たい人である。
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人生において、だれでも何らかの失意・不幸を味わいます。その大小・高低・深遠を比べるものさしはありません。それぞれの感じ方によって異なるからです。失意にある人は、人から言われることば一つ一つにとても敏感になっているものです。
そして、自分を過度に卑下しがちで、普通のことばでも何かとげのあることば、自分を刺していることばに聞こえ、何でも曲げて受け止めがちです。
そういった時に尊敬する人から与えられる一言は、貴いものです。時には何気ないひとことが人生を決定づけることさえありえます。
実は私にもありました。30代半ばで自信を持って仕事に没頭していた頃、予期しない望まない配転に落胆し、先行きに不安が高じてきたのです。「左遷された!」と思い込み、我ながら苦しんで、仕事への意欲も薄れかけたとき、尊敬するある先輩が夕食に誘ってくれました。そして一緒に仕事して楽しかったことやゴルフの話に花が咲いたころ、
「山見クン、人間至る処に青山ありだ!」と。
この一言が私を立ち直らせてくれました。それからは、何が起きようともこのことばを思い起こせば、立ち向かう勇気が沸いてくるのです。
悩める人には信念を、悲しむ人には希望を!
失敗は宝の山・ヒントの海!
成功は過去・失敗は未来!
失敗する勇気、恥をかく勇気、批判を受け入れる勇気の3つの勇気を持てば、怖い者はありません。なぜなら、成功者よりももっと学ぶものが多いからです。成功者には学べない、優しい心のあり方、思いやりの心=惻隠の情を学ぶことができるのです。
そうしていくと長い目でみれば、最後には成功するものだと信じます。
昔から「人間万事塞翁(さいおう)が馬」や「禍福はあざなえる縄(なわ)のごとし」とも言います。つまり、悪いと思ったことが善く変わり、辛いことが楽に代わり、また、禍いと見えたことが福にも換わるように、良悪・苦楽・禍福が交互にあるいは回転しながら容赦なく降りかかってきます。しかし悪いことは良いことへの変換バネでもあるのです。つまり「順風を悦ぶ人が遇っている風は、即ち逆風を悲しむ人の遇っている風である。福ならずとせらるる風は即ち福なりとせらるる風である」(幸田露伴『努力論』)のです。
実際、私も自暴自棄にならず、眼前の仕事に没頭していたら、4年以上経った頃、私は元の仕事に呼び返されたのです。その時「誰かが見てくれていたのか!」と涙腺の緩みを感じたものです。
何かにつけて、常に吟ずる典雅なる詩とは:
真砂なす数なき星の其の中に吾に向ひて光る星あり
(子規)
慰め上手な人とは、順逆の風に何度も遇い、悲喜の味をたっぷり楽しんだ人といえましょう。悩める人の話をじっと聴いてあげる人、そして適切なことばで慰めてあげる人です。その慰めが失意の人に勇気と信念を授けることになります。
そんな役割はお坊さんや牧師さんだけのものではありません。もっと身近にもこんな役をやってくれる恩師や先輩あるいは友人などにも見いだすことができます。
松下幸之助さんも「逆境――それは与えられた尊い試練であり、この境涯に鍛えられてきた人は誠に強靭である。しかし、逆境でなければ人間が完成しないと思い込むことは、一種の偏見ではないだろうか。逆境は尊い。しかし順境も尊い。いずれにおいても、与えられた境遇に素直に生きることである。謙虚の心を忘れぬことである。素直さを失ったとき、逆境は卑屈さを生み、順境は自惚れを生む」(『道をひらく』)と素直に生きる大切さを訓えている。
一人でも多くの人が、人間的な修養によってそんな役割が果せるようになることは望ましいことです。慰め上手な人が増えれば、ともすれば孤独に陥りがちな今の世の中、殺伐になりがちな多忙な職場の雰囲気が、少しは潤いのあるものになります。
慰めのひとつひとつは小さくても、ある無形の社会貢献ではないでしょうか。お金を出す余裕がなくても、そういった慰めの心を抱き、ひとりにでも優しいことばをかけてあげることは、その気になれば誰にでもできそうです。
そのような行為を心がけ、慰め上手になるだけでも、社会にご恩返しをしていることになると思います。慰めの押し売りからは人が遠ざかり、人に慰めのことばも見いだそうとしない人はどこにいても、むしろ自分が淋しくなるだけです。
目つきで傷つけ、言葉で傷つけ、仕草でも傷つける
・・・だから嫌われる